はじめに
このコンテンツはこれから北海道で初秋に特に道東の鮭・鱒にチャレンジされる方のために何か参考になればと思い書きためたものです。特に目立ったノウハウはないけど2年間色々試行錯誤してついに念願の北海道の釣り第一歩を叶えた男の赤裸々な記録です。

 初秋の道東に釣行するのは実は2度目。なぜ昨年釣行記を書かなかったか?実は昨年は北海道にでかけるまでが色々大変で実釣では大した結果が残せなかった。しかし今年は春先から意気込みが違った。昨年忠類川で散々ピンクサーモンに弄ばれたあげく全てラインブレイク!釣り方が不味いのか?ラインが細いのか?自分の筋力が貧弱なのか?(確かに魚影も濃くなかったが)とにかく一つづつ解決のために万全を尽くしてきた。

 まず、釣行の条件から検討してみた。昨年はオホーツクのピンクサーモン(通称カラフト)は漁獲が裏年といわれる不漁年にあたり遡上数が基本的に少なく、逆に今年は豊漁年といわれる希望の持てる年だった。ラインはバリエーションが必要で有ることを痛感していたのでティーニー等国内では入手困難なラインは早くから確保した。フライはゾンカーにしてもマラブーにしても”赤”一辺倒では一旦魚がすれると全く見向きもされない。減水して魚の移動が無く同じ魚をたくさんの釣り人がいじめる場合がそうだ。ニジマスよりたちが悪い。
 キーワードの”色”ウエイト”フックサイズ’シルエット”を洋書、ネットでパターンを徹底的に洗い上げ最大限自信の持てるフライボックスに仕上げたつもりだ。そして最後の切り札としてウエイト入りのキラー・ストリーマーを考えた(後述)


鮭を相手にすること(その1)
北海道で対象にする鮭・鱒の種類は多いが私の旅程の中で今回出会う確率の高いのは5種類(シロザケ、カラフトマス、オショロコマ、アメマス、イトウ)である。この時期の最大魚は八月のフレッシュランから安定して遡上するピンクだがこいつの厄介なのは大きさがまちまちであるということだ。この時期は残念ながらシロザケ(チャム)の遡上数はごくわずかだ。今年最初につりあげたのは45cmクラスのピンクの小型のオスだった。ロッドが#10の剛竿であったせいも有って15分程度であっさり寄ってきた。だかこのサイズは最小の部類になる。アベレージで50〜60cm最大で80cm、、大きなピンクはシロザケ(チャム)をしのモンスター級のものもいる。はじめてフッキングした方はそのあまりのオーバーパワーに驚くかもしれない。しかし精神力で魚に負けると絶対に岸には寄せられない。。
 
大物釣りの基本1.ロッドの弾力でためてラインをはやく巻き取りロッドでやり取りする2.ラインを絶対に出さない。走られたらラインの巻き取りが大変であるし廻りに迷惑をかける。3.腰の位置(重心)を低くし両足でしっかり全体重を乗せアンカーする。

鮭を相手にすること(その2)
もし貴方が体重が軽い(おおよそ70kg以下)の方ならキャッチングを確実にするため日頃から筋トレをしておくことをおすすめする。特にフッキング後の最初の爆発的なランを抑え込むにはかなりの慣れと強靭な背筋力、腹筋を必要とする。昨年はそれができずラインを引き出されロッド生命を守るために中途半端に戦った事が敗因だった。ロッドは是非高番手の#9〜#12を使い最初のあたりで竿をしっかり煽り針がかりを確かにしてその後に臨むべきだ。

 移動距離の長い鮭の数釣りに対して基本的な体力をつけるため私の場合は趣味の水泳で春からほぼ毎日プールでクロール500m、平、バタ、背で500m合計1000m泳ぎ込んだ。何か自分の趣味のスポーツで意識して体を鍛えておくことをおすすめする。

一路、羽田経由で根室中標津空港へ。今年はどんな出会いが待っているのだろう。
素晴らしいプロポーションの雄72cm。とても自然の造詣物とは思えない
ついに自力で釣り上げた初カラフト。地元のアングラーが快く写真を引き受けてくれた。
北海道は九州の約1.5倍。移動には想像以上に時間がかかるがスピードの取締も厳しい。
のどかな中標津の酪農風景。子供の頃の絵本を思い出す。
朝5時が手続き開始、そして開門。ヒグマの気配を確かめて一斉に川にくりだす。
天候と水況しだいで忠類川の調査は突然中止になる。3日目は台風に伴う増水のため調査は急遽中止、無念!
先立つものをどうするか(その1)
まず用意が整ったら軍資金の心配をしなくてはならない。もちろん潤沢に使える方は読み飛ばしてもらいたい。
往復の航空運賃は私の住む広島地域からプロパーなら軽く往復十万円は越える。しかも千歳乗り換えである。もうおしまいである。行けるわけない。しかし航空会社も商売である。座席を埋めるためにこっそりあのてこの手で値引き旅券(ディスカウントチケット)を販売している。有名なのは超割チケットだがこれは予約制で応募期間も有り朝からPCの前に座ってキーボードをたたきまくっても必要な路線すべてを瞬時に確保できる保証は何も無い。そして次が本命おすすめのバースディ割引(ANA)だがこれもいつまで続くサービスか確かではない。しかしある程度、席に余裕が有ることも今回の申込でわかった。広島〜羽田〜中標津の往復で四万円台で破格である。しかも同行者四人まで同額のディスカウントの恩恵に浴する事ができる。

 私は9月生なので忠類川のファーストランは間に合わないけどチャムもピンクも狙え、ヒグマが本格的に喰い込に入る直前の山岳渓流も楽しめるラッキーな人間である。もう一つおすすめなのは(株)東北海道トラベルの専門のツアー。昨年は地元から夜行バス利用で羽田まで向かい中標津経由のオリジナル企画でまわったがとても親切にしていただいた。旅費の総費用は少し今回より高めだったが安心して楽しめた。

先立つものをどうするか(その2)
ここからは旅費を切り詰めるための真骨頂である。北海道の移動は鉄路は既にわずかな幹線しかなく高速バス便も断続的で現実的では無い。やはりレンタカーがおすすめである。しかも単独で予約するべきでは無い。航空会社とたいていはタイアップして大幅ディスカウントしているので航空チケットを予約する際迷わず同時に確保することをおすすめする。そして宿泊は間違っても大ホテル主体で選択してはいけない。味気ない応対と日頃の仕事での出張時同様ののわびしさに大枚を叩くことになる。北海道には独特の旅宿システム(旅びと宿)がある。男女別相部屋でB&Bの日本版みたいなみたいなものだ。ちょっとした「山釣り」山本素石の気分が味わえる。
 
今回の渡道でも最初の宿泊で静岡から来たという綺麗な若い姉妹と食事、歓談のひとときが有った。一人旅の強みである。


9月6日
前述のような準備をしていよいよ正午頃、中標津空港に降り立った。天候は曇り。前日まで降り続いた雨も小康状態で期待が持てる。はやる気持ちを抑えさっそく忠類川で調査員の手続きをする。午後2時入川。第1管理棟のすぐ脇のナニワの瀬は順番待の大繁盛!とても入れてくれる気配が無いのと、同一集団と思われる連中が占拠してて下流の離れた所から挨拶しておそるおそる入ろうとすると容赦無く私のラインをクロスしてルアーが飛んできて威嚇してくる。トラブルを避けるため早々に引き上げ、河口側のエゾシカの淵に入った。

 まずラインの先に結んだのはお決まりのレッドゾンカー#8。上流の孵化場下の瀬から淵までは水深50cmの浅場が続き淵で200cm前後に落ち込む。ここはいかにも遡上中ピンクが休息しやすそうな一級ポイントで既に一人ルアーで攻めている。ラインをティーニーT300に変えて沈める。30分くらい粘って流し終わったところで突然ロッドが水面に抑え込まれた。無我夢中で竿を立てようとしたが全然動こうとしない。スレである事はすぐにわかった。しかしフライを捕食する為では無く目の前の邪魔者を「追い払うために」チェイスするのだからスレも数のうち。10分くらい格闘してどうにか水面に上がって来た。45cmのカラフト(ピンク)だった。
 小型とはいえ昨年のリベンジはこの一尾のおかげで果たすことができた気がしてすっかり楽になった。既に終了の5時も迫りこの日は納竿とした。


手づくりログハウス「モシリバ」
今日の宿は釣り人とバイクツアラーに人気の民宿である。崎無異地区の周囲に何も無い海岸の国道沿いにぽつんと立っている。外観は長年のオホーツクの海風にやられ少しくたびれている感も有るが(失礼)一歩玄関に入るとただ者では無い内装のセンスと細かな気遣いをひしひしと感じることになる。自宅で付近の知床側の河口規制も調べてありオーナーに再確認して付近の河口で日没まで粘ってみる。確かに数匹のペアが遡上してきている。しかし河川内では一切竿を振ることは許されない。即、現認検挙でお縄である。既に道内で今年は十数人が厳重注意されているらしい。海も相当シケておりインターミディエイトもなく(最初からない)早々に宿に帰った。

 すると玄関に常盤貴子似の若いお嬢さんが軽く会釈してくれた。オーナーの娘さん?しばらく待ってオーナーに部屋まで案内していただき食事に招かれる。既に食堂ではバイカーが一人と先ほどのお嬢さんと同年輩のお嬢さんが名物チャンチャン焼きを賞味中だった。誰からともなく話が弾みついに深夜まで四人+オーナー夫妻で酒宴と相成った。
 価値観も違い、趣味も違いそれなのにこの気持ちよさと一体感はなんなんだろう?いくつかの奥様の秘酒を頂き最高潮に達した我々はお互いの旅路の安全と健闘を祈りおとなしく寝床についた(と思う)。
 特筆すべきは旅人のツアースタイルに合せて最大限、融通を効かせて頂ける点だと思う。忠類の朝は早い。受付は5時だから4時半頃には既に玄関からでていかなくてはならない。しかも朝食、昼食とも現地には施設がない。そのため私はオーナーに無理を言って巨大2食分おにぎりをつくって頂いた。一泊二食付で男女別相部屋で5000円個室でも5500円はとてもお徳です。

9月7日
本日予定どうり4時起床、5時ジャストには忠類川に立つことができた。本日は(社)北海道スポーツフィッシング協会の藤本さんにHPを通じて地元のガイドをご紹介して頂ける事になっているので、それまで早朝でさすがに空いているナニワの瀬に入る事にした。
 本日はセオリーどうりレッド5巻の#8クリオネ(チャートリュース×イエロー)で底をダウンクロスでさらうと今日もあっさりヒットした。しかし昨日の45cmの小型とは訳が違う気配。#8のサーモンシューテイングロッドがバットまで曲がりラインが凄まじい音を立ててを水を切る。何度も河原の玉石に足を取られながら
上がってきたのは70cm近い重量級ピンク。しかしこれもスレ。何か釈然としない。千葉さんの深みでもう一尾同様のサイズを追加してガイドの約束の10時になった。何尾釣っても何故かスレ。ウエット同様ののダウンクロス方式で昨年は少ないながらも反応が有り、ネットで調べてもそれが常識のごとき記述が目立つので疑いもしなかったが・・・

 やってきたガイドは地元の百戦錬磨の二人。メインは斉藤さんといわれる齢30代後半の若者で相方はガイドでも有り通称アフガン号の運転手をしていただいた原田さん、さっそく私のギアをチェックしていただき適切なアドバイスを頂いた。(内容は彼らの仕事の妨げになるので公開は控えます。)アフガン号に乗せてもらって連れていかれた所は、なんとさっきまで釣っていた千葉さんの深み!さっきお互いに健闘を祈った人達に再会してバツの悪いこと。しばらくキャスティングの方法を徹底的にレクチャー頂く。私は生来あがり性なので人前ではなかなかうまく魚が乗らない。ロールピックアップ、アップクロスにフルキャストそして縦のターンが演出できるようにメンド、メンド・・・およそ40分粘るが早々釣れるものではない。再びアフガン号の車上の人となり「アフガン難民」よろしくゴトゴト最上流へ。
ついに見えてきたのは昨年度ばらしにばらしたテトラの瀬に到達した。まさにリベンジ!もう後がないと覚悟を決め慎重にアップクロスでカウント、メンド、メンド。10分くらいして強烈な引き込みがありようやく一尾。しかしこれも残念ながらスレ。フライは同じく#8クリオネ。慎重に浅瀬に寄せ記念撮影にこぎ着けたが動転してガイドの斉藤さんに持ってもらった。
 2時間契約のショートガイドだったので正午までとりあえずもう一尾加え、最終の釣場の確認事項を教えて頂き定時終了の厳守で管理事務所に帰還する事を約束しアフガン号は帰って行った。車が見えなくなってまもなくまたヒット!首振りがして今度はスレでないことを確信した。皆が見てないときにはまともに釣れる。これは「マフィーの法則」そのもので一人苦笑する。その後しばらくぼつぼつ50〜70
cmクラスのピンクがまともに口で釣れ出したが、慣れというものは怖いもので二けた目の魚になるとかなり手際よく同じ浅瀬にずり揚げた。切り札としてウエイト入りのキラー・ストリーマーにも大物がでて本日総漁獲量14尾、ようやく溜飲を下げた。

見事にピンクにお化粧した68cmカラフト、君に会いたかったんだぞ!!
斉藤さん下手な生徒で申し訳なかったです。縦のターンはもう大丈夫です。
オリジナルウエイテッドレディゴーストsp#2にきたメスのカラフト。
9月8日
昨晩、二泊目のモシリバで気になる台風18号の話題でロビーは持ち切りになる。どうも道東は勢力の外縁にあたり雨量は少ないものの吹き返しの暴風があるらしい。正午にはシベリア側に抜けるようでそれまではおとなしく川見をすることにした。知床半島の南側稜線は意外になだらかでそこそこ期待が持てる河川がある。北海道に釣りに行く方は一度はみたことがある「山谷本」に書いてあった有名N渓流に乗りつけてみた。
 さすがに昨晩までの雨で増水しており入川すべきか迷ったが、その内、一台の老夫婦が運転する小型車が1ヶ所しかない降下点に停車した。「わ」ナンバーであることから遠方者で、このご主人は若い時分一度この川でいい思いをしたために奥さんを連れて再訪したらしい。しかし しばらく待ったがいっこうに身支度を始めない。どうも、川の増水が気になるらしい。15分ほどして姿が見えなくなったので私もいよいよ覚悟を決めて濁流に身を任せる事にした。水深は平均して膝下くらいだが玉石で左右に川通しで歩けるスペースはない。オレンジのウエイト入りボディにパートリッジをぱらっと巻いた得意のてんからイマージャーで釣り上がると脇の緩みからかわいいオショロコマが飛び出してきた。

 その後バイカーの聖地、開陽台に立ち寄り養老牛にも入ったがサクラマスの気配が濃厚で誤解を避けるために早々に引き揚げた。昨晩同宿のフライマンからイトウも狙える湿原が30km南東に有ることを聞いていたので残り時間で訪れてみた。
 しかし現地は唯一降下できる橋脚の脇も本州では絶対入らない程の低木と葦の繁茂で竿を通すのに苦労した。そのブッシュトンネルを20m川に向かい降下してようやく水面が見えてきた。でも、これはフライで攻めるべきスペースは無い。しかたなく西山翁よろしくダッピングでニンフを送り込む。しかしどこも生物反応らしきものは感じられず、がっかりしていた次の瞬間、下流で「ドスン!バリバリ!」と回りの薮に反響する物音と動く黒い物体!「ヒグマか?南無三!!」目をおそるおそる開いてみると対岸に黒いつなぎのルアーマンがにっこり笑ってこちらを見ている。一部始終見られたか・・・すっかり釣る気も失せ
次の目的地、阿寒に向かうことにした。

 本日の宿は「じゃらん」で検索し見つけた穴場の格安温泉宿「ホテル山水荘」。ボッケまで歩いて10分の至近距離で遊覧船乗り場まで一分の便利な立地。付近には入漁券を24時間販売してくれるローソンもすぐ近くにある。一泊24時間温泉付食事無で¥3300〜

標津町内を流れる有名河川。ヒグマの気配におびえながら濁流の上流へ向かう。
年ぶりに再会したオショロコマ。何度みても青みがかったボディがおしゃれです。
イトウはどこだ。そして私はどこにいる?迷子になったら生命の保証は有りません。
9月9日
さあ今日は楽しみにしていた阿寒川と阿寒湖だがどうもネットの情報によると湖は今の時期芳しく無いようだ。アメマスも初夏でピークを終え、レインボーも夏の高温時期はかなりの深場で過ごすらしい。昨晩も網戸にして寝ても息苦しいほど気温が高かった。最近は入漁料は阿寒湖・阿寒川共通となって便利になったらしい。迷わず阿寒川で終日楽しむ事にする。
 朝、島根のマティラの飯塚さんから激励の電話が有りどうも昔からのポイントがやはり手堅いらしい。最下流のピリカネップのダムまで試走するがかなりの増水で波頭まで立っている。ガイドブックで散々見て予想した流れとあまりに違いとまどう。

 900m上流の阿寒橋は支流白水川との合流地点真上に架かる橋だがここまで来ても水量は落ちてない。阿寒橋の上流800mには国道左側に駐車スペースがある事になっているが現在工事車両の出入口になっている。付近の豪快で荒々しい落ち込みが素晴らしい魚達の隠れ家を提供しており「阿寒川に棲むニジマスは特別に気が荒く熾烈なファイトは他の道内の河川の比ではない。こいつを釣り上げて一人前の釣師だ」と某ライターに言わしめたほどの鱒は私には縁が無かった。

 さらに5km上流の清流橋付近は雄阿寒ホテルの跡地としてポイント名を残す。しかしここは入渓者が多くしかもC&R区間として増殖保護されているのでまさしく岡山湯原ダムマス釣場状態、かなりシビアである。川幅は広いが岩盤の流れで、水深が安定せず徒渉には注意が必要だ。サワダさんのノルウェー釣行記ではないが膝下なのかと思ってどんどん歩くと次の瞬間80cmくらいの深みになっていたりする。

 しばらく目が慣れてくるとそのえぐれにたくさん魚がついているのがわかる。対岸のえぐれで小さなライズを発見してさっそくワイルドキャナリ#8を結ぶ。しばらく15cmくらいのマスがどんどんかかる。「おかしい、放流サイズ・・・」私の経験ではえぐれでこれほど群れていると深いところには賢明な大物がいることが多いと感じ、クロカワムシのピューパ特大#8を結ぶ。こんなでかい黒い幼虫は本州にはいないが阿寒では普通に捕食されているらしい。シャンクにはかなりしっかり銅線が巻き込んでいるのでいきおいアウトリガースタイルになる。
2キャスト目についにその時はきた。#7のグラスロッドは満月のようにしなりハーディライトウエイトリールは悲鳴をあげる。しかしその魚が落ち込みから本流に逃げ込む際、岩盤のエッジでリーダーを擦ってしまた。ラインブレイク!気を取り直して上流の滝見橋を目指す。

 周囲は前田財閥の管理地で手つかずの自然が手厚く保護されている。森を挟んですぐ脇は国道が走って開発が間近なのに河畔にはコンクリートの構造物一つ無い。やはりこれだけのウイルダネスの後ろ盾には膨大な人為を止めるだけの情熱と財力が必要だったことをひしひしと感じずにはいられない。タイトラインで伸ばせば覆い被さる枝下から必ず何らかの反応があった。正常な生命のいぶきを感じる。

 バイカモの間の流れの変化したところで大物の影を見つける。しかも複数だ。フライは既に本日のヒットフライ、ワイルドキャナリーに結び直している、私がもっとも信頼を寄せるランズパティキュラは似ていてもことごとく無視されていたので確信を持って投じた。同じ50cm近い鱒がゆっくり吸い込むのが見えた。いつのまにか対岸に齢七十はとうに過ぎた外人の老ルアーマンがロッドを片手に私の苦闘を見ている。15分程のファイトの後ついにその鱒は私のリーリースネットに収まった。対岸で軽く拍手をする彼の姿が見えた。釣れたのは別段私でなくても良かった、そう思える至福の時だった。同様の鱒をもう一尾追加した。

 付近は水中、岸にも温泉が湧き出し独特の景観を形成しており豪快さと限りない優しさを併せ持った素晴らしい渓相をつくっている。私の広島の自宅から20分の所にも実は川幅渓相もよく似たK田というところが有り有志でC&R区間の足掛かりを目指すべく増殖活動を行っている。何らかの啓示を感じずには得られなかった。


9月10日
今日はいよいよ最終日である。そうなればダメとは言われていても釣り人の性分、湖に行ってみることにした。ホテルからボッケまで10分足らず、拍子抜けするほど近かった。阿寒湖はアメマスが有名だがかつてイトウも棲んでいたらしい。そのロマンに満ちた伝説によるとアイヌの人達はイトウをチライとオビラメに区別して「チライの肉は不味いがオビラメはおいしい」と伝承されてきた。そのオビラメが阿寒湖に棲んでいたというのだ。結局、魚の気配はボッケでも桟橋でも感じることができなかったがこれは次年度の楽しみにとっておくことにして、昼の中標津空港からの帰りの便に間に合うように身支度を始めた次第である。午後10時自宅着。

頬を赤く染めた良型のレインボウです。向こう岸で拍手がおきました。
この日最大級48cm。尻尾はまだ回復してないけど川の中を走らされました。
夢にまでみた阿寒川の原始渓流。当然のように巨大な鱒達が戯れる。
日中でも木立で薄暗いのに何故か陽気なするのはコタンの妖精のせいか。
いたるところで温泉が湧出して川に流れ込んでいる。どうも湯原温泉を感じる。
飯塚店長とお知り合いの組合の監視員の方、色々お話を伺いました。
アメマスもしっかり出てくれました。銅白色の不思議な色をしています。
豊かな時間が太古から流れる阿寒川に再訪を約して別れを告げました。
付録 追加情報、今回の実際の装備一覧、ヒットフライなど